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『COOL』は、世界で活躍するアーティストやニューヨークで注目のアートシーンなどを紹介していくアートマガジンです。創造するということ、かっこいいものを見ること、そこから感じる何かを世界中で共感できたらおもしろい!文化が違うとこんな違ったかっこよさもあるんだ!そんな発見・感動をしてもらえるボーダレスなアートマガジンを目指しています。現在、全米各地やカナダ、フランス、日本、中国などで発売中。誌面ではなかなか伝えられないタイムリーな情報や、バックナンバーに掲載されたインタビューなどをこのブログで公開していきます。
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マンハッタン・チェルシー地区の一角にあるギャラリー「Chapel of Sacred Mirrors (CoSM)」で、ヴィジョナリー・アートの巨匠アレックス・グレイが、彼の作品に秘められているヴィジョンや哲学を解説してくれるギャラリー・トークを行なった。

「ヴィジョナリー・アート(又はサイケデリック・アートとも呼ばれる)」とは, 肉体的な視界にとどまらない, 次元間を超越した世界を表現したアートのことである。代表的なアーティストに15世紀中期にオランダの大画家で悪魔的な怪奇性や幻想性に富んだ絵で有名なヒエロニムス・ボス、18世紀に活躍したイギリスの画家で詩人のウィリアム・ブレイクなどが先駆者として挙げられる。近年ではニュー・エイジ・ムーブメントの流行に伴い、絵画からポストカード、Tシャツまで、多種多様なメディアの中にヴィジョナリー・アートの片鱗をみることができる。

「バーニング・マン」と呼ばれ、毎年8月最終週の月曜日から7日間にわたって、ネバダ砂漠の広大な土地で行われる大規模なイベントがある。これはヴィジョナリー・アートとレイヴ・シーンが融合しあったもので、ヴィジョナリー・アート崇拝者達にとっては最大のイベントである。1986年、サンフランシスコに住む男性が恋人との諍いの憂さを晴らすために、等身大の人形を燃やしたことが由来で、この“人形に火をつけて燃やす”行為がアーティスト達の興味を集めたのだ。その後、この儀式は更に人気を集め、ニューエイジ・カルチャーに傾倒する若者やアーティスト達による恒例の夏のイベントへと発展した。現在では世界中から約4万人を集めるほどの規模になり、70年代に現れたヒッピー・ムーブメントの復活を彷彿させる。

アレックス・グレイはこの「バーニング・マン」に集まる人々にとっては、絶大な支持と人気を誇るカリスマ的存在のアーティストである。彼の作品は、人間と宇宙・精神世界のつながりを、緻密で複雑な構成のもとに卓越・熟練した技法を用いながら表現している。彼のアーティストとしての活動は絵画だけにとどまらず、彫刻・オブジェ、インスタレーションやパフォーマンスなど多岐にわたる。

所狭しとギャラリーの入り口に集まる参加者たち。200人ほどの参加者のうち半数近くが西海岸や全米各地から集まった。参加者の中には、ブラジルやドイツ、オーストラリア、日本など、海外からの参加者もいた。そこにアレックス・グレイが登場した。その風貌は華奢で繊細であり、一体どこにあれだけのパワフルな絵を描くエネルギーを秘めているのかと不思議になる。

グレイの誘導によってギャラリーの奥へと進むと、普段は悠然と構えるギャラリー内は瞬く間に大勢の人に埋め尽くされて、溢れるばかりの熱気に満たされてしまった。グレイの作品の特徴として,カラフルな精密画の中に数多くのシンボリズムが秘めていることが挙げられる。それは時としてチベット密教の「曼荼羅」を彷彿させる。今回のツアーは、彼の作品に秘められた謎やシンボルの意味をグレイ本人から語ってもらう絶好の機会なのだ。

グレイはグラフィック・デザイナーであった父親の影響を受け、早い時期から絵心に目覚めていた。しかしそれと同等に芽生えた「生」と「死」に対する深い興味を抑えることはできず、少年期に描いた絵には、裏庭で集めた昆虫や小動物の死体なども描かれている。自他共に認めるほど秀でた絵の才能の持ち主ではあったが、70年代のアメリカで起こったヒッピー・ムーブメント, ポップ・カルチャーやミニマリズムの台頭といった歴史的背景と多感な青春時代が一致して、コンセプチャル・アートやパフォーマンス・アートにのめり込んでいった。その後、人生を大きく変える、ある出来事に遭遇したことによって、彼の現在のスタイルが形成されたのだという。それは、ボストン・アート・スクール最後の日のパーティーで、後に彼の最愛の妻となるアリソンと出逢ったことと、その時に初めてLSD(麻薬の一種)を体験したことで、彼の世界観と人生観は大きく変貌することになったのである。

「初めてトリップをした時に、光と闇の渦巻きのヴィジョンを見たんだ。」と、そのヴィジョンを基に作成されたオブジェクトを指差すグレイ。その作品は光と闇を象徴する白と黒が渦を巻き、中央にある灰色の部分がその両極をつなぎ止めている。彼にとってこの“灰色(グレイ)”はこの世界に存在する二極性、つまり光と闇、物質的な世界と霊的な世界、「男性性」と「女性性」、「生」と「死」、「自己」と「周囲」、「地球」と「宇宙」など、全てを媒介する橋渡し的な意味を持ち、彼の描く世界に存在する人間そのものが、この「グレイ」の役割を担っているともいえる。このヴィジュアル・トリップがきっかけで、本名のアレックス・ヴェルジーから改名して、“アレックス・グレイ”を名乗るようになり、さらにはLSDを常用するようになった。

作品製作のためにドラッグを使用することを公言するグレイは、それを彼の言うところの“ヴィジョナリー・ステイト(非現実的な状態)”に達するための手段のひとつであり、ヴィジョナリー・アートとは、我々のイマジネーションの領域すべてを意味し、現実の多次元性を覗くための“レンズ”のようなものなのだと語る。彼は「宇宙や精神世界と現実の世界の間の伝道者としての自分の使命を遂行するため」に、自分の意思でドラッグを用いているという。彼は、グレイに触発されてドラッグに走ろうとする人々に警告する。この行為が違法であることや、グレイの友人がLSDの濫用で逮捕され、20余年の刑に今も服していることなども例に挙げて、LSD使用について質問した若者に対してグレイは厳しく問い返した。「君があたえられた使命は何なのだ?」と。

鮮やかなカラーが強烈な印象を与えるグレイの絵画には、通常我々が視覚で捕らえようない観念や感覚が存在し、超現実的なものやシンボリズムを含む多次元的な世界が描かれている。それも、彼がLSDなどのサイケデリックスで得た体験に基づくヴィジュアルな現実なのである。そして彼の作品の多くには、普遍的な真実を探求する想いとメッセージがひとつひとつ細かに描かれている。それはチベット仏教、キリスト教、カバラ(ユダヤの密教的哲学)、スフィなど、彼自身が真実を求めるために学んできた様々な宗教と哲学、その象徴やヴィジョンなのである。

その多次元的な彼の作品には、常に「人間」と「人間の体」が中心的な役割を果たしている。ハーバード大学の解剖博物館に5年ほど勤務している間に独学で解剖学・超心理学・チベット密教を学んだ後、メディカル・イラストレーターとして解剖図を描く仕事をしていた経歴を持つ。グレイの描く人体は透視図のように骨、筋肉、神経はもとより、東洋医学で使用される経絡やツボまでが正確に描かれている。

「我々の身体は“テンプル(聖堂)”なんだ。私達は奇跡のようにすばらしい聖堂に生きているんだ。」と、目を輝かせながら話すグレイ。 彼はシャマーニズムの“トランスフィグレーション(変容)”という手法を使って、 宇宙、自己の中にある世界、異なる現実などの多様な次元の橋渡し的な役割としての人間を描く。 彼が描く世界観の中で人間はとても重要な意味を持っているのだ。

「アートは私達の中にある自己を反映するものなんだ。コンテンポラリー・アートはこのままでは意味がなく、的外れなものになってしまう恐れがある。」と危惧するグレイは、自身の絵を通じて彼が見出した普遍的な真実を人々の意識に植え付けていきたいと語る。今後は、ニューヨーク郊外に彼のアートや思想活動の本拠地をつくる計画や、2007年の秋には新しい展覧会も予定されている。

作品の印象や経歴から、エキセントリックな人物を想像しがちであるが、グレイ本人はとても情熱に満ちてはいるが決して攻撃的ではなく、知的で思慮深い人物である。2時間を越える熱いギャラリー・トークが終わった後も、グレイと直に接しようとする人々のリクエストに丁寧に受け答えていたのが非常に印象的であった。

Text by Reimi Takeuchi & Sai Morikawa, Photo by Ryu Kodama

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