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『COOL』は、世界で活躍するアーティストやニューヨークで注目のアートシーンなどを紹介していくアートマガジンです。創造するということ、かっこいいものを見ること、そこから感じる何かを世界中で共感できたらおもしろい!文化が違うとこんな違ったかっこよさもあるんだ!そんな発見・感動をしてもらえるボーダレスなアートマガジンを目指しています。現在、全米各地やカナダ、フランス、日本、中国などで発売中。誌面ではなかなか伝えられないタイムリーな情報や、バックナンバーに掲載されたインタビューなどをこのブログで公開していきます。
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90年代よりニューヨークを拠点に活動を続けるアーティスト森万里子。昨年行われた「第51回ベネチア・ビエンナーレ」に出品された「Wave UFO」に引き続き、今年日本で公開された最新作のインスタレーション「Tom Na H-iu(トムナフーリ)」が話題を呼んだのはまだ記憶に新しい。現代アーティストとして成熟の時期を迎え、海外からも高い評価を受ける森万里子。今回はマンハッタンにあるまだ引っ越して間もない彼女のアトリエを訪ね、ニューヨークでのアーティストとしての活動と、彼女がずっと見つめ続けてきたニューヨークのアートシーンについて語ってもらった。

COOL:なぜ活動の拠点にニューヨークを選んだのですか?

Mariko Mori:はじめはロンドンに留学していました。それから、ニューヨークに「ホイットニー・インディペンデント・スタディー・プログラム」というのがあり、1年の予定でこちらに来たのがきっかけです。その後もニューヨークで活動を続けようと思った理由としては、とても自由であるということ。多様な国や文化の人達が住み、わたしたちにも平等にチャンスがあるというところですね。

C:こちらにいらした当時のニューヨークはどんな環境でしたか?

MM:もっと怖かったですね。とても危ない感じがしました。しかし今よりももっと自由でしたね。マンハッタンにはたくさんのアーティストが住んでいて、一緒にhang outすることもできたし、アーティスト達が集まるミーティングポイントがありました。画廊も今とは違って、チェルシーではなくSOHOにあり、オープニングに行けばいつもアーティスト同士のコミュニケーションがありました。当時はもっとローカルな感じで、ニューヨークのアーティスト達は仲良く協力していたという感じですね。でも今ではブルックリンやクイーンズへアーティスト達が‘移動してしまい、以前より海外在住のアーティストが展覧会をするようになり、だんだんとローカル性というものが希薄になってきたような気がします。

C:以前も海外からやってきたアーティストはたくさんいたわけですよね?

MM:その頃は、今よりももっと「自分はニューヨーカーだ」という意識を強く持っていたような気がします。もちろん本当の意味で、ニューヨークで生まれ育った人は1%にも満たないのかも知れませんが、以前からニューヨークにいたアーティスト達は、自分が何処の国から来たのかというよりも、もっとニューヨーカーとしての意識を持って制作しているという感じでしたね。

C:以前と比べて、現在のニューヨークのアートシーンはどのように変化したと思いますか?

MM:以前はあまりグローバルな感じではなく、どちらかというと、ニューヨーク自体が盛り上がっているような感じでした。でも最近は世界の舞台がニューヨークになり、海外から作家がきて、ローカルからグローバルな方向に変わってきたという感じですね。以前、SOHOに「American Fine Arts」という画廊がありましたが、そこはアーティストの登竜門みたいなところで、そこから発掘されたアーティストは、ニューヨークのアーティストとして認められました。様々な文化やジェンダーの作家の作品をアートワールドが評価するようになったので、ニューヨークのシーンで活躍している作家だけでなく、海外で認められた作家もとても活動しやすくなったのではないかと思います。

C:森さんにとってニューヨークの魅力とは?

MM:14年前にニューヨークへ来た当時は、たぶんニューヨークの魅力に惹き付けられたのだと思います。ニューヨークはアートに対するサポートが全然違のです。見返りを期待せずにサポートする。そういった情熱を持った人達がたくさんいます。蒔かれたアーティストという種にいっぱい水を注いでくれるから、アートもすくすくと育っていくのだと思います。そういった意味でニューヨークという土壌は、アーティストにとって大変育ち易い場所ではないでしょうか。私自身にとっては(このニューヨークという場所が)あまり磁場を感じない場所であると思っています。例えば、ヨーロッパへ行くと、重圧な歴史のある文化ですから、何かとても重い磁場を感じてしまうのです。そうすると自分の社会的な位置は、いつもアウトサイダーであり、私は社会に属さない立場のように感じられるのです。日本でも同じように長い歴史があり、完成された、あまり変動のない社会があります。私は日本でもアウトサイダーであり、同じように重い磁場を感じます。つまりどちらに行っても社会が決めたアイデンティティーしか持つことができないのです。ニューヨークにいると、様々な人が住み、多様な文化があり、許容範囲が広いというか…自分のなりたい人物像を想像し、自分らしく自由でいられることができます。

C:ニューヨークでアーティストとして活動するにあたって、重要なことは何だと思いますか?

MM:今、何が起こっているのかというのを知るには良いと思います。ただ(ニューヨークは)本当に展開が速い場所です。動向が変わったり、たくさんの人達が入れ替わったりして、とってもハプニングしている場所です。その中で一番難しいことは自分を失わないことだと思います。いつも自分のことをしっかりと見つめていて、自分の存在性だとか、実現したいことや、自分の希望だとか夢だとか、そういったものをしっかりと自分自身で分かっていないと、いつの間にかニューヨークにただ巻き込まれて、振り回されているだけになってしまうという恐ろしさがありますね。そして本当に一番大事なのは、ニューヨークに限らず、どんな仕事をしていても、何処に居ても、どんな時でもそれは言えることだと思いますが、自分を信じられる事、信じることではないでしょうか。

C:ニューヨークで活動していく中で、困難なことや不便なことはありましたか?

MM:ニューヨークでは特に周囲の動きが速いので、相手と一生懸命コミュニケーションしようとしないと誤解が生じることがあります。何か問題が起きる時は必ずコミュニケーションのミスや説明不足が原因です。日本の社会では言葉を交わさないでもお互いが理解し合えるということもありますが、もちろんこちらでそれは通じません。だからハッキリと「こうして欲しい」ということを相手に伝えることが大切です。私自身も来たばかりの頃はそれでよく泣いてましたね(笑)当時は小さな作品を作っていたのですが、それをひとつの工場では作れなくていくつかの工場に別けて発注したりすると、最後にそれらを合わせてひとつの作品にする段階になってそれが合わないとか。日本ではちゃんと寸法を知らせればその通りに制作してくれますが、こちらではなかなかそうはいかないのです。だから絶対にミスがないようにするには、実寸の型紙なんかを使って説明しないといけなかったですね。最近ではこちらも相手のキャパシティが分かってきましたし、向こうも私のデマンドが分かるので大丈夫ですが、もともとニューヨークにはいろんな人種の人達がいるので、自分と同じ価値観で仕事をしてくれるチームっていうものをつくるのが大変でした。そういった人達に出会うまでにとても時間が掛かりましたね。

C:森さんから見て、日本とアメリカの現代アートに関する認識の違いはどのような部分だと考えますか?

MM:日本の現代美術のシーンをあまり良く把握していないので、ハッキリとしたことは言えないのですが、ただ、作家達を育てていく環境作りというのがまだまだなのかなあと思いますね。まずアートをサポートするには、画廊とか美術館が揃っているだけではなく、欧米では一般の人達が実際にそれをコレクションするコレクターがいます。作品を理解して、愛して、それを収集するような人達がいないと、どんなにアーティストが頑張っても、実際に資金的なサポートがなければ継続できないのです。そういった、アーティストを育てていく土壌作りみたいなものがだんだんと行われているとは思いますけれども、まだまだなところもあるのかなあと思いますね。

C: 森さんは普段どのようなものからインスピレーションを受けるのですか?

MM:去年はスコットランドの遺跡、一昨年は日本各地の縄文の遺跡というように、いつもリサーチをしています。私の場合は、未来というものは過去にあるという気がするのです。過去からずっと続いてきている時間という沢山の「点」があって、それが 繋がって「線」となっていく。自分がひとつ「点」を打ち、次の時代の人がまたひとつ「点」を打って、またそれがずっと未来に繋がっていく。そういった意味で時間は、「メビウスの環」のようになっていると思うのです。問題は今にあっても、答えは今にあるとは限らない。だから今に答えを求めるのではなく、私の場合は未来を知るために過去に遡ってみるのです。

C:それでは最後に、最近の作品と日本で開催中の個展について聞かせて下さい。

MM:作品のタイトルは「Tom Na H-iu」といって、これは古代ケルト語で、「輪廻転生する前の魂の再生の場」というような意味です。一昨年ぐらいから縄文のリサーチで日本の各地を旅し、同時代の紀元前3000年のスコットランドの「スタンディング・ストーン(石柱)」を去年見てまわりました。そして自分が先史時代の太古の遺跡を見ているうちに、太古の人達の生死観というか、“死”に対するイメージというのが、壮大で宇宙的に感じられたのです。わたくしは、現代の「スタンディング・ストーン」を創りたいと思いました。(「Tom Na H-iu」は)星の最期の状況である超新星爆発の際に、「ニュートリノ」という物質がたくさん放出されるのですが、それを「神岡宇宙素粒子研究施設(スーパーカミオカンデ)」という施設で検出し、その検出データを受けて、宇宙で星が亡くなった時の「死の光」というものをイメージして、ガラスでできた「スタンディング・ストーン」の中に光の映像が映し出されるといった作品です。



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森万里子
チェルシーカレッジオブアート卒業。
ロンドン留学後、ニューヨークの「ホイットニー・インディペンデント・スタディー・プログラム」を経て、1993年よりニューヨークを拠点に活動。1997年「ベネチア・ビエンナーレ」にて優秀賞受賞。シカゴ現代美術館、ロサンジェルス州立美術館、ポンピドーセンターなどの世界の主要美術館で個展を行っている。



text by Sei KOIKE, photo by Akiko TOHNO, Richard Learoyd
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