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『COOL』は、世界で活躍するアーティストやニューヨークで注目のアートシーンなどを紹介していくアートマガジンです。創造するということ、かっこいいものを見ること、そこから感じる何かを世界中で共感できたらおもしろい!文化が違うとこんな違ったかっこよさもあるんだ!そんな発見・感動をしてもらえるボーダレスなアートマガジンを目指しています。現在、全米各地やカナダ、フランス、日本、中国などで発売中。誌面ではなかなか伝えられないタイムリーな情報や、バックナンバーに掲載されたインタビューなどをこのブログで公開していきます。
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ヴィデオ・アートの第一人者として世界的に高い評価を受ける、ニューヨーク出身のアーティスト、ビル・ヴィオラ。1970年以降、ヴィデオ・アートを作り続け、全米やヨーロッパ各地で数々の展覧会を成功させてきた。また彼の妻であり、仕事のパートナーでもあるキラ•ペロフは、常に彼の制作活動の支えとなってきた。見る者をその世界へと引き込む彼の作品の多くが、人間の根源とも言える「誕生」や「死」をテーマとして取り上げている。また彼は、1980年代に日本に長期滞在した際に、日本の伝統や文化から多大な影響を受けたアーティストでもある。10月14日からは、東京六本木にある「森美術館」でその集大成とも言える、アジアにおける初の大規模な回顧展が行われている。今回我々は、彼が活動の拠点を置くカリフォルニア州ロングビーチのスタジオで独占インタビューに成功。彼がアート活動をはじめるまでの経緯や、彼にとっての芸術活動の在り方について語ってもらった。



COOL: どんな少年時代を過ごされましたか?

BILL VIOLA: 僕はNY郊外で生まれ育ったんだ。周りはいつも同年代の様々な人種の子供達で溢れていて、よくみんなで一緒に遊んでいたね。それはアメリカならではの、とても賑やかで楽しい環境だったよ。普段はなかなか自然を目にする機会がなかったけど、ある年の夏、ビーチに家族で遊びに行ったとき、空の青さと海の広さに感動したのは一番の思い出だね。

C: アート活動をはじめたきっかけは?

B: 3歳の頃に母親に絵を描くように薦められたんだ。それで家やボートや人などを頭の中に想像しながら描くようになった。そのうちに、家族や親戚、周りの人が皆、僕の描く絵にすごく興味を持つようになったんだ。幼稚園の時に初日の授業中に竜巻の絵を描いたんだけど、先生がそれを全員の前で見せてね。とても恥ずかしかったのを覚えているよ(笑)でもそれ以降も、僕が授業で描いた絵はよく注目を浴びていたんだよ。

C: 影響を受けたアーティストは誰ですか?

B: 難しい質問だね(笑)たくさんのアーティストからいろいろな影響は与えられてきたと思うけれど、中でもヴィデオ・アートの創始者とも呼ばれるナムジュン・パイク(Namjune Paik)は、僕にたくさん勇気や自信を与えてくれた。さらに展覧会を開くことも薦めてくれた。彼は僕に芸術活動をするチャンスを与えてくれたんだ。僕は彼の作品に影響を受けたというよりも、彼のアーティストとしての生き方に共感しているんだ。他にも、20世紀の偉大なピアニストの一人であるデビッド•テューダー(David Tudor)も、僕にサウンドを学ばせてくれた大切な人だね。1973年に、はじめて彼と出会ったんだ。当時エレクトリック音楽を勉強していた僕は、彼と8年間にわたって供にパフォーマンスしてきた。彼は物静かな人であまり話したりしないんだけど、溢れるばかりの強いエネルギーに満ちた人だった。彼から学んだサウンドスキルは、今の僕のビデオ制作に大きな影響を及ぼしているんだ。

C: ビデオアーティストとしてどんな瞬間に喜びを感じますか?

B: ベッドでゆっくり眠れる時間が取れたときだね!(笑)いや、それは冗談だけど、実はアート活動は僕にとって喜びではないんだ。作品を思い通りに作り上げることに喜びを感じることはあっても、ほとんどの場合は答えを見つけようと奮闘している。夜眠りにつくときも、どうしたらこの作品をもっとよくできるかとか、たくさんのことを考えていて気が張りつめているんだ。例えば、木を切ってテーブルを作る作業にはきちんと終わりが見えているけれど、アートには終わりがないよね?僕は自分の作品に100%の満足感を感じたことはないんだ。人間は皆完璧ではないからね。アーティストもその一部だ。物事に対する答えを知っているから作品を作り続ける訳ではなく、ただ心の中の空いたスペースを埋めていくために、僕たちは作品作りに没頭しているのではないだろうか。

C: 制作のアイデアはどんな所から生まれているのですか?

B: 今までアイデアを得るのに困ったことは一度もないよ。僕は常にノートにアイデアを書き留めているからね。今僕が座っている後ろの本棚の上にたくさんのノートが並んでいるだろう?そこには僕のアイデアがいっぱい詰まっているんだ。僕の今までのビデオ制作はこの中からのほんの一部にすぎない。肝心なのはそのたくさんあるアイデアの中からどれを作品化するか、いつ作品化するか、そしてどう作っていくか決めることなんだ。いくら頭の中で大きなことを考えていても、それを作品にできなかったら意味がないだろう?実際に作品にして、周りの人々にどう影響を与えていけるかっていうことが大切なんだ。

C: あなたの作品を観たオーディエンスに何を感じ取ってほしいですか?

B: 僕らの生活はテレビやラジオや雑誌など実に多くのメディアに囲まれていて、人々は目にした物や耳にした物をそのまま受け止めることに慣れすぎてしまっている。見た物に対して自分がどう感じるかについて考える機会がなくなってきているために、自身で考えるということをしなくなっているんじゃないかな。例えば、毎日コーラを飲めと渡されてきた人が、ある日突然水を渡されたらきっと戸惑うし気に入らないだろう?それと同じだよ。20世紀のアートは新しいテイストを取り入れていくアヴァンギャルドなものなんだ。しかし新しいものを受け入れるというのはとても時間のかかることだよ。だって受ける側の感性はクリアではない。既に何かの影響を受けてしまっているからね。人々は自分の考えが正しいと思えなくなってきている。僕の両親は、僕のアートワークを見ることを躊躇していた。それは僕が伝えようとしていることをいまひとつ理解できなかったからなんだ。そしてそれを恥だと感じていた。でも本当はそんなふうに感じる必要はまったくないんだ。作品を見て自分が感じたこと、それが答えなんだ。正しいか間違いかなんて誰にも決められないんだよ。

C: あなたの作品には「誕生」や「死」といったテーマが取り上げられていることが多いですが、それはなぜですか?

B: それが人間の人生の根源だからさ!1988年に僕と妻の一人目の子供が生まれたとき、僕は出生の瞬間に立ち会ったんだ。その時の感動は一生忘れることができないよ。それは本当に奇跡的な体験だった。そして1991年には僕の母が亡くなった。僕の目の前でベッドの上でね。生と死の瞬間をこの二つの出来事を通して目の当たりにして以来、僕はもう静止画像の作品を作ることができなくなった。人間の本質のように深くて美しく、時として醜い、そういったものを表現したくなったんだ。

C: その人間の本質の一つである「死」をオーディエンスにどう受け止めてほしいですか?

B: 大切なのは「死」をネガティブなものとして受け止めないことだ。「死」はいつか必ず自分にも訪れるもの。それは悲しいことだけど、とても深いものなんだ。

C: あなたは作品の中で「スローモーション」を多く使用されていますよね?それはなぜですか?

B: ハエは数日間しか生きることのできない生物だが、人間は恵まれていれば80年以上生きることができるよね。長いとか、短いとか、我々の時間の感覚はそれぞれ違っているんだ。何かがすごいスピードで起きたとき、僕たちの体は考える間もなく反応している。例えば、車の事故に遭ったときだって、しばらくしてからふと我にかえったりする。僕たちのマインドは後からついてきているんだ。
でもその瞬間に実はたくさんの事が起きている。瞬時に起きている物事に人々は気付いていない。作品の中で「スローモーション」を使う事によって、「瞬間」という小さなタイムフレームに目を向けることができるんだ。

C: テクノロジーが発達したことによってあなた表現の可能性は広がったと感じますか?

B: そうだね、1970年代の頃と比べたら本当に変わったよ。自分はとてもラッキーだと思う。当時、テクノロジーの進歩にとても感動を覚えたし芸術活動の新しいフォームとなっていくだろうと感じたよ。でもそんなテクノロジーの進歩以前に、僕は既にヴィデオ・アートをはじめたときから「自分はこれを一生続けていくんだ」と確信していたんだ。

C: 過去の展示会の中で印象的なものはどれですか?

B: どれももちろんよかったけれど、1979年に開いた個展『Projects: Bill Viola』 はとても印象的だった。ニューヨークの「MoMA(The Museum of Modern Art New York)」で、僕が28歳のときに開いたものだよ。1996年にはパリの「ソルペトリア」という大きな教会で『Messenger』と『Crossing』の2つの作品を上映したんだけれど、それも心に残っているね。

C: 2005年の春にフランス、パリで開かれたオペラ『トリスタンとイソルデ』はいかがでしたか?

B: LA交響楽団のイーサペッカ•サロネン、監督ピーター•セラーズ、そしてリチャード•ワーグナーの音楽による4時間の映像と音楽とのコラボレーションを作り出すことができたこのオペラは本当に素晴らしかった。実は、このオペラは来年の春にロサンゼルスの「ディズニーホール」で、そして来年の5月にはニューヨークの「リンカーンセンター」でも再演される予定なんだ。

C: 日本での1年半の滞在はあなたの作品制作にどう影響を与えていますか?

B: 日本で「外国人」として生活することを初めて体験した。文化や、言葉や人種の違いを肌で感じることができたとても良い経験だったと思う。日本はテクノロジーの発達が最も著しい国だけど、その一方で守られてきている伝統文化もある。過去と現在、古いものと新しいものが共存した国だという印象を受けた。それが僕の視野を広めてくれたと思っているよ。

C: 今回の日本の展覧会で、ご自身の作品のタイトルのひとつでもある『はつゆめ』をタイトルとして選んだ理由は?

B: この案はキラと僕で思いついたものなんだ。確かに『はつゆめ』は日本にいる間に作った作品だから、今回の個展のタイトルにしたというのもあるんだが、実を言うと、『はつゆめ』という作品ばかりにそれほどフォーカスして欲しくはないんだ。ただ純粋に「一年の初夜に見る夢」という日本的なアイデアから取り上げたものだからね。

C: 最後に、日本のファンの人々にメッセージをお願いします。

B: いろいろな物を目にして、耳で感じて、自分の感性を大切にして欲しいと思う。(大事なことは)障害にばかり目を向けずに、先ずは何事もはじめてみることだよ!



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ビル・ヴィオラ(Bill Viola)
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